第2825回

梅咲きぬは山本一力

もう「サクラ」の開花が言われる今日この頃、「梅」の話しかと笑われるところですが、誰に紹介頂いたのかは忘れてしまったのですが、山本一力の「梅咲きぬ」は、珠玉の一作だと言われて読み始めました。

とは言いながら、日常の仕事の中では、なかなか趣味の域の本までは読めません。一番良いのは出張の時です。飛行機、新幹線、高速バスなど、読書時間としてはまとまっていて有り難いものです。

さてこの本は、江戸の市井の人々の日常の生活ぶりを書いてあります。もちろん人が殺され、また傷つけられることもありません。江戸時代が背景ですが、将軍様が登場する訳でもなくて、本当に名もなく清く美しく生きている人々を描いています。

主人公の玉枝は、深川門前仲町の老舗料亭「江戸屋」の5代目女将として育てられます。女将にふさわしい人間になるように、母親であり4代目女将の「秀弥」は、それはそれは厳しく愛情を込めて育てます。

「身の丈に過ぎたぜいたくは、世間様の笑いものになるばかりではなく、江戸屋の暖簾にも障ります」とか、「質素とみすぼらしいのとは別のことです。派手さのみを求めるのは無用ですが、江戸屋の女将としての体裁を忘れてはなりません」。

またその秀弥の仕事ぶり、豊岡八幡宮氏子総代としての差配など、男でもなかなかそこまでやるかという計らいをします。いやもしかしたら、山本一力は、女将(女)だから出来る限界を、男以上に求めたのかも知れない。

3歳の夏祭りから42歳までを描いていますが、江戸時代の日本人(山本一力はそんな了見の狭いとらえ方はしていなくて、この時代の全人類はと捉えていると言えばオーバー?)は、助け合って、知恵を出し合って、足らぬものを補い合って生きています。

例によって涙腺の弱い私は、4代目女将秀弥の逝去のあたり、また5代目の踊り躾の師匠「春雅」の死、またそれを追って2日後に亡くなった夫の「福松」の死の場面では、電車の中ですが、涙が溢れてティシュペーパーがたりませんでした。良い本に癒されました。

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