「大地の咆哮」(ほうこう)元上海領事が見た中国by杉本信行
この本のまえがきを読んだとき、上海で自殺した外交官の死に触れた文章があったので、私は彼の死について
書かれた本であると確信して、これを読み進めた。
2004年春、上海の日本総領事館で、一人の館員が、このままでは国を売らない限り出国できなくなるとの遺書
を残して死んだ。私は、その時の総領事であった。
残念ながら、その死については全く触れられてはいない。著者が、外交官としての人生を、その多くを
中国で過ごしたことから、日中の悠久から今日のギクシャクした関係への危惧等が、歴史的事実を数多
く挙げながら、実に丁寧に、そして実に正直に書いてあります。
氏の立場上、問題になるのではないかという心配の反面、よくぞここまで書いて下さったと敬意を表す
るものです。
特に最後の付録で述べられているような記載は、大変分かりやすいと思うので、ここに転載させて頂きます。
中国は19世紀後半から、外国から軍事的に威嚇され、半植民地化した歴史を持つ。とくに、義和団事件
に端を発する列強からの干渉は、百年後の今日に至るまで、中国人の深層心理の中に、「中国は外国か
らうとまれ、いじめられてきた」という、いわゆる「義和団コンプレックス」が根を張っている。
とくに日本に対しては、歴史的に見て中国のほうがはるかに強大で発展していたとの意識があるために、二
十世紀初頭の日本のさまざまな干渉、1930年代から十数年に及んだ日本の侵略に対して、いまにいたる
まできわめて強い反発が残っている。
中国がA級戦犯にこだわる理由は、七十二年の日中国交正常化の際、当時の中国国民には認めがたい条
件で交渉が進められたことと密接に結びついている。
とくに、賠償放棄は、戦争犠牲者の親族・縁者がまだ多く生き残っていた中国で、本来ならば国民の支
持を得ることは難しい問題だったと考えられた。
(中略)「先の日本軍による中国侵略は一部の軍国主義者が発動したものであり、大半の日本国民は中
国人民同様被害者である」という理屈だった。
この一部の軍国主義者であるA級戦犯を首相が参拝するとなれば、「七十二年のロジックが崩れてしま
う」というのが中国の主張である。
つまり、靖国への首相の参拝を見過ごせば国内向けに行ってきたこれまでの説明が破綻し、政府が苦し
い立場に追いやられるというわけだ。
なお、日本は終戦時点では280億1400万ドルと見積もられた在外財産を放棄し、関係国による処分にゆ
だねた。また、これまで賠償及び賠償に代わる経済協力として円換算で9455億3000万円を供与している。
例えば、対比賠償は56年に5億5千万ドルが支払われたが、当時の日本外貨準備高の58.5%を占め、年
間国家予算の18.2%に相当するものだった。
ガンを宣告され、闘病生活のなかでこれを書き上げたのは、力作に違いない。ただ惜しむらくは、フ
リガナが欲しかった。とくに中国人の名は読めません。
咆哮とは、「猛獣などが大声でたけり吠えること」を意味するそうです。 http://www.miss.a-ark.net/company/diary/files/CIMG2226.jpg